分銅(ふんどう)という名前を聞いて、真っ先に思い描くイメージは小中学校の理科の授業で使う重りではないでしょうか。先端がくびれていて、そのくびれを利用してピンセットで挟み、天秤に載せる、あの分銅です。

しかし実はトラックスケールや台ばかりなど何百kg、何tの世界になっても、分銅は非常に重要な役割を果たす重りとして活躍しています。ここでは分銅の使い方や作り方についての説明を通じて、トラックスケールや台ばかりなどのはかりと分銅の関係について紹介します。

INDEX
  1. 分銅は安心と信頼のために活躍している
  2. 信頼できる分銅は慎重に慎重を重ねて作られている
  3. 高精度の分銅で作るダイトクのトラックスケール

分銅は安心と信頼のために活躍している

分銅と天秤

多くの人が初めて分銅を使うのは、理科の実験の時間に上皿天秤を使うときでしょう。上皿天秤で分銅を使うときは、一方の皿に分銅を載せ、もう一方の皿に重さを計りたい物を載せて、中央の針が左右均等な振れ幅を見せたところで釣り合いが取れたとして計量します。このとき使う分銅は、上の写真のような円柱形の金属の塊です。

これに対してトラックスケールや台ばかりなどで使われる分銅は、箱のような形をしています。基本的な用途は○kgの分銅を載せて、その通りの計量値がはかりの指示計に表示されるかどうかをチェックすることです。

はかりのメーカーが使う主な場面としては、製造時の重量調整や検定、ユーザー様の事業所へ設置後の重量確認や故障後の現場検定、、代検査などが挙げられます。

またユーザー様自身が使う場面もあります。例えば自主的な日常点検、商品を輸出する際の対外的な精度の証明などです。これらを行うことで、毎日の業務で壊れたはかりを使っていないかをチェックしたり、輸出先の国や企業に対して高い精度のはかりを使って計量しているというアピールをしたりできます。

はかりのメーカーが使うにせよ、ユーザー様が使うにせよ、分銅は計量における安心と信頼を確保するために使われているのです。

信頼できる分銅は慎重に慎重を重ねて作られている

しかし分銅が計量における安心と信頼を確保するためには、分銅の重さが正確でなければなりません。例えば10kgと本体に記載された分銅が、実際は9kgしかなかったり11kgもあったりしたら、トラックスケールや台ばかりの精度チェックには使えません。10kgと本体に記載された分銅は、厳密な意味で10kgでなくてはならないのです。

とはいえ、分銅に正確な質量を持たせるのは簡単ではありません。なぜなら質量というのは、温度や湿度などを含む様々な条件によって少しずつ変わってしまうからです。そのため、分銅の世界では分銅の精度に等級を設けて、その分銅がどれだけ信頼できるかどうかを証明する仕組みを作っています。

分銅のトレーサビリティ

上図はこの仕組みを簡略化したものです。以下ではできるだけわかりやすく、この仕組みについて解説していきましょう。

「1kgそのもの」である国際キログラム原器

正確な計量を行うためには、1kgはアメリカでもイギリスでも日本でもアフリカでも1kgでなければなりません。そのためにはこれが1kgであるというスタンダードが必要です。

国際キログラム原器

そのスタンダードは現在、フランスの首都パリの近郊セーヴルという町にあります。この町には国際度量衡局という機関があり、そこに1kgそのものと決められている国際キログラム原器が保管されているのです。現在保管されている国際キログラム原器は1879年に作られたもので、直径・高さ共に約39mmの円柱形で、プラチナ90%イリジウム10%の合金でできています。

しかし国際キログラム原器は世界にたった1つしかないので、世界中の1kgのスタンダードにするには不便です。そのため1889年に開催され、当時の明治政府も参加した第一回国際度量衡総会において、各国に国際キログラム原器のコピーが配布されたのです。

そのうち日本に配布されたのが日本キログラム原器です。これは文字通り各国の重さのスタンダードになりますが、前述したように質量は様々な条件によって変化する可能性があります。キログラム原器は空気に触れないように厳重に保管されていますが、それでも質量が変わる可能性はあります。

そのため各国のキログラム原器は30年に1度、質量が変化していないかどうかを確認する目的で、セーヴルの国際度量衡局に里帰りし、点検が行う決まりになっています。

日本キログラム原器から生まれる分銅たち

国際キログラム原器が世界に1つしかないように、日本キログラム原器は日本に1つしかありません。そのためこれを日本全国のスタンダードにするには、やはり不便です。

例えば北海道のトラックスケールの精度チェックするのにも日本キログラム原器を持ち出し、沖縄の台ばかりの精度チェックをするのにも日本キログラム原器を持ち出していたら、いつまで経っても全てのはかりの精度チェックは終わりません。しかも質量は空気中の水分やほこりがついただけでも微妙に変わりますから、日本キログラム原器を頻繁にケースから取り出していたら、あっという間に質量が変わってしまいます

これを防ぐために国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)によって作られているのが、ステンレス鋼製の特定副標準器です。1kgの日本キログラム原器と釣り合う1kgの分銅を作り、普段はこの分銅を1kgのスタンダードとして使っているのです。

続いてこの1kgの特定副標準器をもとにして、1kgの分銅2個と釣り合う2kgの分銅を作り、さらに2kgの分銅2個と1kgの分銅1個と釣り合う5kgの分銅を作ります。この要領で1mgから20kgまでの分銅を作っていきます。こうして作られた分銅が校正用標準分銅と呼ばれます。精度等級としてはE1級とされ、許容される最大誤差は以下の通り、非常に厳しいものになります。

分銅の質量 最大許容誤差
50kg
20kg
10kg
5kg
2 kg
1 kg



1mg
±25mg
±10mg
±5mg
±2.5mg
±1.0mg
±0.5mg



±0.002mg

1円玉1枚が約1gですから、E1級の50kgの分銅は最大で1円玉の40分の1の誤差しか許されないということになります。一般家庭用の体重計の誤差が数百gであることを考えると、E1級の分銅の精度の高さが実感できるのではないでしょうか。この校正用標準分銅をもとに作られるのが、E2級の検査用標準分銅となります。

E2級の検査用標準分銅をもとに作られるのは、F1級標準分銅です。標準分銅の精度等級はF1級以下、F2、M1、M2、M3と続きます。確かに精度等級が下がるほど誤差も大きくなっていきますが、そのぶん分銅の管理コストを下げ、はかりの精度に応じたより広い範囲で効率的にはかりの精度チェックを行えるようになるというわけです。

国際の標準と国内の基準

一方、AISTは特定副標準器とは別に、日本キログラム原器から特級基準分銅という分銅も作っています。この特級基準分銅をもとに作られるのが、1級基準分銅で、精度等級は以下2級、3級と続きます。なぜ2種類も呼び名があるのかといえば、これは国際的なスタンダードと日本国内のスタンダードが異なっているからです。

どちらも日本キログラム原器から作られる分銅ですが、国際的なスタンダードとなっているのは特定副標準器から作られていく標準分銅で、日本国内のスタンダードとなっているのは特級基準分銅をもとに作られていく基準分銅です。

標準分銅の
精度等級
基準分銅の
精度等級
基準分銅の
精度等級
E1級(校正用標準分銅) なし ±0.5mg
E2級(検査用標準分銅) なし ±1.5mg
F1級 特級 ±5mg
F2級 1級 ±15mg
M1級 2級 ±50mg
M2級 3級 ±150mg
M3級 なし ±500mg

両者は上表のように、精度においては同等のレベルを求められます。しかし違いが1つだけあります。それは分銅の成績書に協定質量拡張不確かさが明記されているかどうかです。

協定質量とは質量測定の結果であり拡張不確かさとは参照する分銅、機器、環境など様々な要因を考慮したバラツキの値を指します。例えばF1級の標準分銅の公差(最大許容誤差)は、5kgで±25mgとされています。しかし同じ精度等級の5kg分銅でも+1mgの分銅Xもあれば、-2mgの分銅Yもあります。

このときに国際的なスタンダードであるF1級の標準分銅の成績書には、協定質量±拡張不確かさが記載され分銅Xなら「+1mg±6.8mg」(拡張不確かさは計算による)、分銅Yなら「-2mg±6.8mg」などといった校正(検査)結果が明記されます。

一方で日本国内のスタンダードである特級基準分銅の成績書には、測定結果が公差内にあれば器差(誤差)については記載されず、10kgなら「10kg、器差0」20kgなら「20kg、器差0」と記載されます。

つまり国際的なスタンダードでは、それぞれの分銅が持つ誤差が記録として残り続けるのに対し、日本国内のスタンダードでは質量の校正(検査)に合格すれば器差はリセットされ、10kgなら10kg±0となるのです。

はかりのユーザーは、どの分銅をいつ使う?

分銅に2つのスタンダードがあるのがわかったところで、次は具体的にはかりのユーザー様が、どの分銅をいつ使うのかを考えていきましょう。

一般的な用途は日常点検

台ばかりや天びんを使用するユーザー様の場合、日常点検が分銅の主な導入目的となります。しかし標準分銅と基準分銅ともに、これらの分銅を所有するためにはそれぞれのルールにしたがった管理体制を確立しなければならず、基準分銅については公的機関に申請をしなければなりません。

そのため、日常点検のために導入する分銅は標準分銅や基準分銅をもとに作られているものの、公的機関などのチェックを受けていない相当品を使用して頂く場合もあります。

この分銅は公的機関からの検査を受けていないため、この分銅で台ばかりや天びんの精度が出たからといって取引上の証明に使うことはできません。しかし一定以上の精度が出ていることは確認できるので、1日の業務の中で壊れた秤を使っていないということは言えるのです。

はかりの精度の証明に使う場合は標準分銅

輸出船

ただし輸出先の国や企業に対して使用しているはかりの精度を証明するために分銅を使う場合は、国際的なスタンダードである標準分銅を使った精度チェックが必要になります。なぜなら基準分銅を使って行われた定期検査だけでは、あくまで国内法である計量法にのっとった検査でしかないからです。

この場合は標準分銅に相当する精度の分銅を購入したうえで、JCSS登録事業者と呼ばれる公的機関に登録をしている事業者に精度の点検と証明をしてもらい、さらにその分銅を使って今度はJCSS認定事業者と呼ばれる事業者にはかりの精度の点検と証明をしてもらう必要があります。そうしてようやく輸出先の国や企業に対して、「自分たちは高い精度の秤を使っています」と証明することができるのです。

高精度の分銅で作るダイトクのトラックスケール

日本国内のスタンダードである基準分銅を所有するためには、各都道府県に対して質量標準管理マニュアルを提出したうえで、分銅の質量の正しい管理ができる体制を確立していると認めてもらう必要があります。

そのため基準分銅を所有しているのは、ダイトクのようなはかりメーカーか、公的機関か、もしくはトラックスケールなどはかりの定期検査や代検査を行う計量士だけになります。これらは公的機関によって精度が証明された基準分銅を使って、自分たちで同じ程度の精度を持つ実用基準分銅を作ることが認められています。

ダイトクではAISTから特級基準分銅を購入し、これをもとに1級実用基準分銅を作り、さらにそこから2級実用基準分銅を作っています。ただしダイトクで作り、管理している2級実用基準分銅は、定められた最大許容誤差よりもはるかに高い精度を誇ります。というのも1tの2級実用基準分銅での公差(最大許容誤差)は±50gですが、ダイトクの分銅は±20g程度に収まっているのです。

ダイトクははかりメーカーですから、トラックスケールや台ばかりを作ります。そしてその製造段階で調整や検定をする際は、こうした非常に高い精度の分銅を使います。もちろん、はかりの設置の際や代検査の際も同様です。そのためダイトクのトラックスケールや台ばかりの精度については、全幅の信頼を置いていただけると自負しています。

安心してはかりを使いたいというユーザー様は、ぜひダイトクにご用命ください。