みなさんは牛乳瓶や醤油瓶、日本酒の一升瓶の内容量表記(ml、lなど)と中身が、どうして一致しているのだと思いますか。
「きっちり計って中身を入れているからじゃないの?」と思う人が大半だと思います。確かにこれは半分正解、でも半分は間違いです。なぜならこの三種類の商品は一定の基準をクリアした一升瓶を使っている限りは、ml(ミリリットル)やl(リットル)といった体積を計量してから充填しなくてもいいからです。
そんなことをしたら、1つ1つの内容量にズレが生じそうですよね。でも大丈夫。日本の計量法には「特殊容器制度」というルールがあり、これを守っている限り、内容量はきっちり表記通りになるのです。
以下ではこの制度の概要を見ていきながら、なぜそうなるのかを解説していきましょう。
体積を計量しなくてもOK!「特殊容器制度」
通常、mlやlといった体積の単位を使って販売される商品は、きちんとした計量器を使って計量しなければなりません。でなければ「こっちの日本酒は1.8l入っているけど、こっちの日本酒は1.7lしか入っていない」という事態になりかねないからです。
そのため1950年代はじめまでの日本では、酒瓶や醤油瓶、牛乳瓶などの瓶詰め商品に関して、1本1本検品してから販売していました。想像するだけでも嫌になる作業です。
あまりにも非効率だと考えた当時の政府が、効率アップと正確な計量を両立させるために作ったルールが「特殊容器制度」でした。
この制度は一定の高さまで中身を満たすと、自然に正しい量が確保されるように製造された瓶(1.8l瓶)を使えば、液体商品の体積を計量しなくても良いというもの。制度が創設された翌年の1957年当時、びんの総製造数に占める特殊容器の割合は約27%にも上り、関連業界の生産効率アップに一役買ったのでした。
実はとっても身近な「特殊容器」
ではどんな商品に、特殊容器が使用されているのでしょうか。上図は計量法および酒税法で定められている、特殊容器の使用が認められている商品です。一見しただけでも、特殊容器がいかに私たちの生活に身近なものかわかるのではないでしょうか。
特殊容器として製造された瓶には上の写真のように「正」の字が打たれているので、別名「丸正瓶」とも呼ばれます。この瓶は1973年に出荷量がピークを迎え、全国で約15億本作られたとされています。
昭和の名作漫画である『巨人の星』の登場人物、星一徹は「THE 昭和の親父」として有名ですが、同作品が描かれていたのは1960年代後半です。すでに特殊容器制度が施行されたあとのお話なので、彼が酔っ払って抱えていた日本酒の一升瓶にも、「正」の字があった可能性が高いと言えます。
特殊容器制度廃止をめぐる議論
実は特殊容器制度は随分前から廃止が検討されています。というのも缶や紙パックといった、1950年代にはほとんどなかった容器の増加に加え、計量技術の進歩によって、特殊容器を使わなくとも効率性と精度を両立できるようになってきたからです。
実際、2005年度第2回計量行政審議会の資料によると、びんの総製造数に占める特殊容器の割合は審議会開催当時で約3%にまで減っています。
2019年11月現在も特殊容器は製造されており、制度も廃止されていませんが、いつか、底のあたりに「正」と打たれた瓶が日本から姿を消す日が来るのかもしれません。
まとめ
特定容器制度を始め、私たちの生活の中には、あちこちに計量法で定められたルールが適用されています。
例えば私たちが学生時代に学校の身体測定で使っていた体重計や身長計は、ダイトクが製造しているトラックスケールと同じように、定期的に国の定めた精度をクリアしているかの検査が必要です。(詳しくははかりを扱ううえでとっても大切な検定と検査の話)
スーパーで量り売りされている肉や魚、仕事の休憩中に自販機で買う缶コーヒーなども、「商品量目制度」というルールを守って販売されています。(詳しくは知っていますか?あなたの生活を支えている「商品量目制度」)
そしてそれらのルールが遵守されているからこそ、私たちは安心して生活できているのです。ひょっとすると普段何気なく使っているものの中にも、計量法と関係しているものがあるかもしれません。
もし気が向いたら、日常のふとしたときに「これも計量法が適用されたりしているのかな」と考えてみてください。