体重計に乗るとすぐに計量が始まり、数秒待つだけで自分の今の体重がわかる。体重計によっては、体脂肪率や骨密度、体年齢なども、ものの数秒で計測できる。

当たり前のことのように思いますが、実はこれ、私たちが地球で生活しているからできることなんです。例えば月に行くと重力が地球の6分の1になるので、地球の体重計で60kgだった人の体重は、月に行くと10kgと表示されてしまいます。

しかし、宇宙船の中で働いている宇宙飛行士たちは、健康維持のために毎日体重測定をしています。彼らはいったいどうやって体重を計っているのでしょうか? これには「重量」と「質量」の違いが大きくかかわっています。

今回は宇宙飛行士の体重測定をきっかけに、なんともややこしい「重量」「質量」の違いについてお話ししてみようと思います。

INDEX
  1. 宇宙船内では「体重」は計れない?
  2. 重量?質量?重さ?それぞれの定義と計量法
  3. まとめ

宇宙船内では「体重」は計れない?

宇宙飛行士と地球

宇宙飛行士の「体重」測定

こちらはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の油井宇宙飛行士が、ロシアの体重計測器(BMMD)を使って体重を計っている動画です。

BMMD
出典:JAXA | 宇宙航空研究開発機構

こちらの青い機械がBMMDです。地球の体重計とは似ても似つかない形状の機械ですよね。


出典:JAXA | 宇宙航空研究開発機構

そして、こちらがBMMDを使った体重測定の様子です。ビヨンビヨンと跳ねる様子だけを見ると、まるで子どものおもちゃ「ホッピング」で遊んでいるかのようですが、これが宇宙飛行士の体重測定なのです。

なぜこんな機械で体重測定ができるのか?

なぜBMMDで体重測定ができるのかというと、この体重計はバネの力を利用して、体重を計っているからです。

地球での体重測定

普通、私たちが体重を計るときは地球の重力がありますから、この重力を計測すれば体重を計ったことになります。

したがって、地球上での体重測定は、私たちが地球に引っ張られている力を計っていると言い換えることができます。

しかし宇宙船内は無重力空間なので、下から何かに引っ張ってもらうわけにはいきません。だから地球と同じやり方で体重を計れないのです。

そこで登場するのがBMMDのような体重計測器です。

バネの性質

宇宙船で使われる体重計測器には、バネが内蔵されています。だから先ほどの動画でも、ビヨンビヨンと上下に動いていたわけですが、これがミソです。

バネが縮んだり伸びたりする「弾性」を「バネ定数」と言います。バネ定数は地球でも無重力空間でも一定です。

そのため、例えば10kgの力でバネを押した時に元に戻るときの速度は、日本でも宇宙船内でも同じになります。

BMMDはこのバネの性質を利用し、「バネがどんなふうに戻るか」を計測することで体重を計っているのです。

またNASAにも「SLAMMD(通称スラムド)」という体重計測器がありますが、この機械では「バネがどんなふうに縮むか」を計測することで体重を計ります。

重力の大きさは場所によって変わりますが、バネの弾性は場所によって変わらない。だから宇宙飛行士はバネの力で体重測定をするんです。

重量?質量?重さ?それぞれの定義と計量法

クエスチョンマーク

重量・質量・重さ、それぞれの定義

「地球では体重計の上に乗るだけで体重測定ができるが、宇宙船内ではバネの性質を使った測定器を使わなければ体重は計れない」

これを別の言葉で言い換えると、「地球では重量を計れば体重を測定できるが、宇宙船内では重量がなくなるため、質量を計らなければ体重を測定できない」となります。

重量とはモノにかかっている重力の大きさを示す言葉で、質量はモノそれ自体が持つ重さを示す言葉です。

「どこで計量しても同じ結果」を実現するキャリブレーションとは?でも解説したように、重力の大きさ(=重量)は北海道と沖縄でも違います。

そのため、はかりメーカーはどこで計量しても同じ結果になるように、製造などの段階で精度の微調整を行います(キャリブレーション)。

つまりは場所によって変動する重量を、なるべくモノそれ自体の重さである質量に近づけているのです。

スーパーで肉や魚を計量するはかりも同じですし、研究室で試料を計量するはかりも同じです。だから買い物をするとき「この牛肉は北海道では1kgだが、沖縄では少し軽くなる。だから沖縄で安く買ったほうが得だ!」などとは考える必要はありません。

なぜならキャリブレーションによって、北海道でも沖縄でも「モノそれ自体の重さ=質量」に近い値が計られているからです。

このように考えると、私たちが日常的に使っている「重さ」という言葉は、実はどこにいても変わらない「質量」を指していることがわかります。

計量伝票に「重量」と「質量」が混在する理由

考える中年男性

ところが、スクラップなどの計量後に発行される計量伝票には、「重量」という表記が使われるケースがいまだにあります。

トラックスケールを使ってスクラップなどを計量した場合、トラックスケールはキャリブレーションをされているわけですから、本来どこで計量しても変わらない重さ(=質量)が計測されていなければなりません。

にもかかわらず重量という表記が使われるのは、1992年の法改正以前に考え方の違う様々な種類の単位が混在していたためです。

当時はgf(重力グラム)などの重力単位系、N(ニュートン)などのMKS単位系といった考え方の違う単位系が、学問別・工業別で使い分けられていました。そのせいで同一単位(kg)が使われていても、「物の重さ」が「重量」なのか「質量」なのか混同されるケースがあったのです。また世間的に「物の重さ」=「重量」という考えが定着していたことも原因の一つです。

学生時代に「kg」「kgf(kg重)」「N」などの単位に混乱した人も多いいのではないでしょうか。

しかし1992年以降の新計量法では国際的に合意された国際単位(SI単位)を全面的に採用。これに基づいた法定計量単位が定められ、「重さ」=「質量」の単位はkgやt(トン)、「重量」の単位は力の単位であるN(ニュートン)が使用されました。

すると、計量伝票に記載される単位はkgですから、「重量」という記載は間違いになります。そのため、改正以降現在に至るまで、経済産業省や各都道府県検定所は「質量」での表記を指導・啓蒙を続けています。

ダイトクでも「重量」表記の計量伝票を使用のお客様には「質量」に改めて頂くよう呼びかけており、皆さんが適正な計量をして頂けるように心がけています。

まとめ

普通に生活をしているぶんには、重量と質量の違いを意識する場面はほとんどありません。しかしはかりメーカーは違います。

トラックスケールのような精度が求められる特定計量器を作る際には、日本中どこでも適正な計量できるように日々緻密な精度調整が行われているのです。

特定計量器を使う際は、そんな努力があることを頭の片隅にでも置いておいていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

※なお、デジタル表示のない「機械式はかり」などは重力補正などがありませんのでご注意下さい。

「重量と質量の違いなんて、どうでもいい」なんて思わないでください、我々にとっては大事な違い。適正な計量ができるはかり作りを目指し、日々精進して参ります!