私たちの生活には、単位を換算する場面がそこかしこにあります。gからkg、cmからmといった単純なものもあれば、料理をするときのようにgから㎖という換算をすることもあります。

日常的に行なっている単位換算ですが、実はこれが正確にできるかどうかは、私たちの当たり前の生活を縁の下で支えてくれています。

ここではアメリカとカナダで起きた単位換算ミスによる大事故や、単位換算ミスが原因で起きている現在の日本の医療事故などを紹介。

単位がわかりやすく整理され、間違えずに換算できることがいかに大切かを解説したいと思います。

INDEX
  1. NASAの「マーズ・クライメイト・オービター」
  2. エア・カナダの「ギムリー・グライダー」
  3. 「単位の換算」問題は、日本にもある!
  4. まとめ

NASAの「マーズ・クライメイト・オービター」

惑星探査機
マーズ・クライメイト・オービターは、マーズ・ポーラー・ランダーとともにNASAによって開発された火星探査機で、1998年11月、アメリカはフロリダ州ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。

打ち上げの目的は火星の大気に含まれる成分の調査でしたが、打ち上げから10ヶ月後の1999年9月23日、マーズ・クライメイト・オービターとNASAの交信は途絶えてしまいます。

この探査機との交信はその後も復活することなく、現在も所在は不明のままとなっています。

調査によるとマーズ・クライメイト・オービターは本来予定されていた火星の上空140〜150kmの軌道ではなく、およそ3分の1の57kmの軌道に乗ってしまったために、空気抵抗などによって機材が故障してしまったとされました。

この航行ミスの原因は何だったのかというと、なんと単純な単位換算ミスでした。

もともとポンド重・秒(ヤード・ポンド法)の単位で行われていた計算結果を、探査機の航行担当チームがニュートン・秒(メートル法)の単位だと思い込み、換算をしないまま使用したことが、マーズ・クライメイト・オービターの高度を予定の3分の1にまで下げてしまったのです。

マーズ・クライメイト・オービターの開発コストは当時の金額で1.931億米ドル。

それが航行ミスによって一瞬にして宇宙のゴミになってしまったのです。

エア・カナダの「ギムリー・グライダー」

コックピット
ギムリー・グライダーは1983年7月23日に不時着事故を起こした、エア・カナダ143便の旅客機(ボーイング767-200)の通称です。

この日、エア・カナダ143便はカナダのケベック州モントリオールからアルバータ州エドモントンを目指して飛び立ちます。

しかし全行程のちょうど真ん中ほどに位置するオンタリオ州レッドレイク上空を飛行中、燃料圧力トラブルの警報が鳴ります。

燃料切れの可能性もある警報でしたが、コックピットのコンピュータは十分な燃料があることを表示していたので、機長は一度目の警報を燃料ポンプの故障と判断。

ボーイング767-200の構造上、燃料ポンプを使わなくても航行は続けられたため、警報をオフにします。

しかしすぐに2回目の警報が鳴り、さらに左側のエンジンが停止します。

パイロットたちは異常事態に気づき、近くのマニトバ州ウィニペグへの不時着を決断したのでした。

143便はなぜ全行程の半分程度で燃料切れが起きてしまったのでしょうか。

この事故の原因も、やはり単位換算ミスでした。モントリオールから飛び立つ前、143便の燃料タンクには7,682ℓが残っていました。

モントリオール〜エドモントン間の必要燃料量は2万2,300kgですから、この7,682ℓをkgに換算したうえで、補給する燃料量を決める必要があります。

しかしこのℓ→kgの換算をする際、比重をキログラムとリットル(kg/ℓ)ではなくポンドとリットル(lb/ℓ)で行なったために、補給する燃料量を1万5,000ℓ以上も少なく見積もってしまったのです。

本来約2万7,770ℓ(2万2,300kg÷0.803)必要なところを、1万5,000ℓ以上も少なく補給していれば、予定のたった半分の地点で燃料切れが起きて当然です。

ギムリー・グライダーはパイロットたちの冷静な判断と高度な技術により、1人も死者を出すことなく不時着に成功します。

しかし一歩間違えれば乗務員8名と乗客61名の命が失われる大事故につながっていました。単位換算ミスは時に最悪の事態も招きかねないのです。

「単位の換算」問題は、日本にもある!

注射器
私たち日本人の周りにも、「実はよくわかっていない単位」はたくさんあります。

一升瓶は何ℓに換算できるのか(約1.8ℓ)、五寸釘の長さは何cmなのか(約15cm)、ゴルフで使う○yd(ヤード)は何mなのか(約0.9m)など……。

ただ日本酒の一升瓶の量を換算ミスしても、多少酔いすぎるだけですし、グリーンまでの距離を計算し間違えても、コンペに負ける程度で済みます。

しかし実は日本には、もっと深刻な「単位の換算」問題があります。

それが医療の現場で使われる薬剤の単位換算です。もっとも代表的な薬剤が、糖尿病の治療などに使われるインスリンです。

インスリンは1単位あたり0.01㎖で、医師の判断で何単位投与するかを決めます。

ところがこの1単位を1㎖だと勘違いし、患者に投与してしまったという事例が、2012年1月から2017年8月までに3件も発生していたのです。

この他、骨粗しょう症に使う「ゾメタ」、血液をサラサラにするために使う「ワーファリン」など、単位換算ミスが原因で医療事故につながった薬剤はたくさんあります。

間違えずに単位を換算できるかどうかは、私たちの命に深く関わっているのです。

まとめ

かつての日本では尺貫法とメートル法が混在していたため、日常的に単位換算ミスが起きていました。

ビルの工事現場では、尺とメートルの換算ミスによる窓ガラスの発注ミスが日常茶飯事だったと言います。

中世ヨーロッパでは地域や領主によって扱う単位が変わり、新しい単位もしょっちゅう生まれていました。

その都度換算のための基準を作るのは、さぞかし大変だったでしょう。

仕事や取引が非効率になるだけならまだしも、今回紹介した事例のように事故につながれば、単位換算のミスは人命にも関わってきます。

このように考えると、単位がわかりやすく整理され、簡単に換算できることがいかに大切なのかがわかってもらえるのではないでしょうか。

私たちの生活は様々なルールに支えられて成り立っていますが、単位もそのうちの一つなんです。ルールを決めて、浸透させていった先達たちに感謝、ですね。