例えば10tのものを計量するとして、大阪で計って10tだったものが、同じはかりを北海道に持って行って計っても、あるいは北極やハワイで計っても、全て10tになると思うでしょうか。答えはNOです。
しかしこれでは安心して取引をすることなどできません。鉄スクラップ1kgあたり22円として、そこに100kgの違いが生まれれば、それだけで2,200円もの差が出てしまいます。
このような事態を防ぎ、どこで計量しても同じ結果にするためには、はかりの製造段階で使う地域に合わせた調整(キャリブレーション=校正)を施す必要があります。
ここでは計る場所によって結果にどれくらいのズレが生じるのかを紹介するとともに、その仕組みについて解説。そのうえでキャリブレーションの重要性と方法についても解説します。
計量結果は計る場所によって変わってしまう
トラックスケールを始めとする、取引や証明に使われる計量器(検定に合格した特定計量器)は、製造段階で非常に細かい調整を施しています。そうして国の基準をクリアした計量器だけが、取引・証明用の計量器として使うことができます。
しかし、実は計量結果は計る場所と密接に関わっています。そのため大阪市と北海道、大阪市と沖縄、あるいは北極と赤道では、同じ計量器と同じ荷物でも同じ計量結果にならないのです。
例えば大阪市と北海道では、全く同じ物が北海道の方が1kgで+0.82g、20tで+16.33kg重くなるとされています。また大阪市と沖縄を比べると、沖縄の方が1kgで−0.66g、20tで−13.27kg軽くなるとされます。
北極と赤道における重量の差は約0.5%と言われているので、北極で1kgなら赤道では−5g、北極で20tなら赤道では−100kg軽くなると考えられます。
基準となる場所 | 比べる場所 | 重量値の差 |
---|---|---|
大阪市 | 北海道 | 1kgで+0.82g 20tで+16.33kg |
大阪市 | 沖縄県 | 1kgで−0.66g 20tで−13.27kg |
北極 | 赤道 | 1kgで−5g 20tで−100kg |
こうした違いが生まれるのは重力加速度の違いが原因です。簡単に言えば、物体にかかる遠心力の違いです。
私たちが生活している地球には世界中どこにいても引力があります。しかし同時に地球は回転し続けているため、それによる遠心力が発生しています。この遠心力は北極や南極などの極地に行くほど小さく、赤道に近づくほど大きくなる性質があります。
例えば立った状態で手に何かものを持ち、腕を伸ばして頭上に掲げ、その場でぐるぐると回ってみてください。この回転によって持っているものが引っ張られる感覚はほとんどないはずです。しかしものを持った腕を前に向かって伸ばし、その状態でぐるぐると回ると、持っているものが引っ張られる感覚があるはずです。
このように遠心力は物体が回転の軸に近いければ近いほど弱くなり、遠ければ遠いほど強くなるのです。計量器の重量は引力から遠心力を差し引いた数値になりますから、結果として先ほどの表のような重量値の差が生じるというわけです。
計る場所の違いを考慮した調整が必須!
どこで計量しても同じ荷物が同じ重量結果を示すようにするためには、計る場所の違いを考慮した調整が必要です。これが重力補正です。
例えば校正分銅内蔵の精密天秤などには、この調整をユーザー様ご自身で行える機能が搭載されています。内蔵されている分銅の重さ(質量)は変わらないため、使用する場所でその重量値が表示されるように設定をすれば、どこで使っても正しい計量が可能になるのです。
一方、ダイトクの主力製品であるトラックスケールの場合は話が別です。手抜き一切なし!ダイトクのお客様第一なトラックスケールの作り方でも触れていますが、出荷前のトラックスケールは国の基準をクリアする精度を出すために、細かい調整を施しています。
この調整作業全般をキャリブレーション(校正)と呼びます。この一連の作業の中で、納品先の地域の違いを考慮した重力補正をメーカー自らの手で施すことで、各地域に対応したスケールを製作していくのです。
しかしある特定の場所にだけ対応した重力補正をするのであれば、さほど難しくはありません。地域ごとの違いには国が定めた明確な区分・基準があるため、それらに合わせて、ピンポイントの重力補正を施せばいいからです。
ところが同一県内で事業場や現場の移転、はかりを買うことは決まっているものの、まだ詳細な設置場所が決まっていないといったケースも少なくありません。そのようなケースでもスケールの設置を広範囲に対応できるようにしようとすると、一気に重力補正を含むキャリブレーションの難易度が高くなります。
というのも、スケールの移動が重力加速度に影響のあるもの=南北方向(大阪府内で言えば豊中から泉南など)の移動になると、スケールの重量値に違いが出てしまうからです。
そのため南北方向の移動をしたあとも、同じスケールをそのまま使い続けるためには、移動前と移動後の場所や設置の可能性がある場所の北端と南端の重力加速度の両方に対応できる範囲でのキャリブレーションを行わなければなりません。
この際、ある特定の場所だけに対応したキャリブレーションを行う場合と、スケールの南北方向の移動を考慮に入れてキャリブレーションをする場合を比較すると、求められる精度の範囲に次のような差が生じます。
したがってX地点(北端)とY地点(南端)が南北方向に離れれば離れるほど、キャリブレーションの難易度は高くなるというわけです。
もちろんピンポイントで設定して移動の度にメーカーなどによる検定を受ければ、移動した先でも問題なくスケールを使うことは可能です。メーカーとしてもある特定の場所だけに対応したキャリブレーションは簡単なので、自社の都合だけを考えればわざわざ難しいキャリブレーションをする理由はありません。
しかし移動するたびに検定を受けるとなれば、時間もコストもかかります。その際に営業をストップさせなければならないケースであれば、その間の損失も考慮に入れなければなりません。
つまりメーカーがラクをして作れるスケールは、お客様にとっては時間やコスト、損失につながるスケールになってしまうのです。そのためダイトクでは、そうしたお客様の不利益につながらないよう、南北方向の移動を考慮に入れたキャリブレーションにも対応しています(※)。
※ただし重力補正の適用外の地域にまで持っていく場合は、再度キャリブレーションと検定が必要となりますのでご注意ください。
まとめ
ダイトクは大阪を拠点にトラックスケールなどの特定計量器を製造していますが、実際に日本中の空港や沖縄のユーザー様に製品を納入しています。その際はここで解説したように、地域に合わせたキャリブレーションを行ってから出荷しています。
トラックスケールを始め、特定計量器は業務と密接に関わるものが多いため、何かトラブルが起きた場合には迅速なメンテナンスができるかどうかが非常に重要になります。
その点、ダイトクは各地の信頼できる業者と提携し、迅速かつ柔軟なメンテナンス体制を築いているため、遠方のユーザー様にも安心してダイトクの計量器を使っていただけます。
「安心して使えるスケールが欲しいけど、大阪ではちょっと遠い」とお考えの方も、ぜひ一度ダイトクまでご相談ください。