最大瞬間風速58.1mを記録し、大阪の都市部に大きな被害をもたらした台風21号。今世紀最強とも言われるこの台風は、9月4日に日本に上陸し、ゴミや看板、トタン屋根などを吹き飛ばしながら、最終的に全国で13人(うち大阪、三重、滋賀、愛知の4府県で計11人)の死者を出し、負傷者数は827人にもなりました。
ここでは台風がトラックスケールにどのような影響をもたらすのかを振り返るとともに、関西国際空港のスケールの保守管理を任されているダイトクが、台風21号による同空港冠水に際してどのように対応したのかを解説します。
トラックスケールは台風に弱い
天災の中でも例えば地震であれば、トラックスケール本体に大きな被害が出ることは稀です(基礎にひびなどが発生する可能性はあります)。一方で台風には弱く、規模の大きな台風になると修理や買い替えが必要になるケースも少なくありません。
トラックスケールが台風に弱い理由
トラックスケールが台風に弱い理由の一つは雨です。なぜならトラックスケール内部にはロードセルと和算箱という精密電気部品があるからです。
大量の雨がトラックスケール内部に流れ込むと、排水ポンプを備えている製品でも排水しきれない場合があります。ロードセルは高水準の防塵・防水性能を備えていますが、それでも長時間水没してしまうと各部品の腐食や、経年劣化による摩耗損傷部位から水が侵入する危険性が生じてきます。
また和算箱は構造上完璧な防水処理を施すのは難しく、長時間水に浸かるとショートする可能性が高くなりますし、鉄製の架台も大量の雨で錆が広がると鋼材が薄くなり、たわみや強度不足の原因になり得ます。このうちたわみはトラックスケールの精度に直接影響します。
また雷もトラックスケールが台風に弱い理由の一つです。落雷によってロードセルに電流が流れ込み、回路がショートしてしまえば、その時点でロードセルを全て交換しなければなりません。
各所で被害を引き起こした台風21号
トラックスケールにはこうした性質があるため、2018年9月4日に台風21号が日本に上陸し、主に近畿圏を通過した際は、甚大な被害が発生しました。多くのユーザー様のトラックスケールが雨の影響を受け、六甲アイランドに拠点を置くユーザー様に関しては高潮によって完全に水没するという事態になりました。
以下では今回の台風21号被害の中でも全国的に注目された関西国際空港での被害の振り返りと、関西国際空港のスケールの保守管理を任されているダイトクが、同空港の被害に対してどのように対応したのかを紹介したいと思います。
台風21号が関西国際空港にもたらした被害
大阪湾に浮かぶ関西国際空港は、9月4日の夕方ごろ、観測史上最大の暴風雨に見舞われました。発生した高潮は同空港の発着の中心的役割を担っている第一ターミナルなどがある島を設備ごと飲み込み、停電を引き起こします。
もちろん空港機能は停止。照明は消え、空調も停止した空港内には、約8,000人の利用者と空港で働く人たちが取り残されました。
時を同じくして大阪府泉佐野市のりんくうタウンと関西国際空港のある島を結ぶ関西国際空港連絡橋に、大阪湾停泊中だったはずのタンカーが衝突します。タンカー上部が連絡橋にめり込んだような形になり、やむなく道路も鉄道も閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれました。
最終的に利用者などの脱出が完了したのは翌5日の深夜。バスや高速船を利用しての脱出劇でした。テレビのニュースは関空閉鎖の話題で持ちきりになり、ニュースキャスターやコメンテーターは人命の無事を祈っていました。
発生と同時に動き出した「関空復旧プロジェクト」
動き出しは空港の入電よりも早かった
高潮が第一ターミナルを飲み込んだ光景をテレビのニュースで見た我々ダイトクの社員は、瞬時にして関西国際空港に何台もある自社のカーゴスケールに思いを巡らせました。
カーゴスケールは貨物を飛行機に積み込む前に計量し、貨物のバランスが均等になるようにするための要となるはかりです。空港内の地面に基礎を作って、地中にスケールを埋め込む形で設置するため、高潮によって被害を受けていることは間違いありませんでした。停電が起きていることからも、ロードセルや指示計などの電装品の故障も考えられました。
そこで担当者は即座にカーゴスケールの応急復旧に必要な部品のメーカーへ連絡。「相当数の在庫が必要になる可能性が高いから、今から確保しておいてほしい」と方々に調整をお願いしました。このとき、まだ同空港の運営会社である関西エアポートからの入電はありませんでしたが、それよりも先にダイトクは動き始めていたのです。
GOサインとともに3〜8人体制で復旧作業
翌5日には関西空港内各所からの連絡が入り、ダイトクの担当者が現場に向かい、正確な状況の把握を行いました。すぐに必要な部品を各メーカーに手配し、大阪府計量検定所様に検定日を調整してもらうなど数日のうちに復旧作業への準備を整えました。
しかし依然として空港の大混乱は収まらず、GOサインが出ないまま動けない状態が続きました。そんな中14日にダイトク製の空港貨物スケールの復旧が開港のキーになることを知った経済産業省様から問い合わせの電話があり、その電話を通じて状況を説明してから一気に復旧プロジェクトが動き出します。
経済産業省様から日本航空様、全日空輸様、産業技術総合研究所様、各部品メーカー様、大阪府計量検定所様と各所に協力要請をして頂き、直ちに空港側からのGOサインを受けて18日から復旧作業班が出動。
ダイトク本社工場の工場長を含む3〜8人体制で、ロードセルの交換や電気ケーブルの交換などの作業を急ピッチで進めました。台風の影響で未だ電気が通っていなかったため、緊急対応として発電機を持ち込んでの対応でした。
現場入りから4日目には関空開港へ
復旧作業班が現場入りをしたのが9月18日。そこからの2日間でJAL(日本航空)様の4台のカーゴスケールのうち1台の解体と電装品の交換ともう1台の解体と清掃を終え、ANA(全日本空輸)様の7台のカーゴスケールのうち、1台の解体と電装品交換、調整ともう1台の解体と電装品交換を終えました。
3日目の9月20日には、JAL様・ANA様ともに1台ずつの検定が完了。あらかじめ20日に各社最低1台ずつの検定が終わる旨を経済産業省様に伝えていたことで、「関西国際空港21日に全面再開」のニュースが報じられていたのでした。
その後もJAL様とANA様の残りのカーゴスケールやスイスポートジャパン様のカーゴスケールの復旧作業を行い、9月28日には全ての作業を終えています。
作業を行なったカーゴスケールの数は全部で14台。これだけの量の復旧作業を実質10日程度で終えられたのは、ダイトクの文化である圧倒的な対応スピードがあったからこそだと自負しております。
台風21号の爪痕は深い
とはいえ9月に行なったのは、あくまで応急処置にすぎません。海水が入り込んだカーゴスケールは、遅かれ早かれサビが発生し、精度が落ちる可能性が高くなります。そのため2019年3月からは順次各社のカーゴスケールを新品に交換する予定となっています。
まだまだ台風21号の爪痕は深く残っていますが、最後まで気を抜かずに作業を進めていくつもりです。
まとめ
空の安全を守るダイトクの空港用スケールでも紹介した通り、空港におけるスケールは飛行機の安全運行のためには必要不可欠な設備です。もし今回のダイトクの関空復旧プロジェクトに失敗や遅延があれば、そのぶんだけ関空開港は遅れていたでしょう。
関西エアポートの発表によれば、2018年度の関西国際空港の1日平均の航空機発着回数は512.6回、航空旅客数は7万9,284人、貨物扱量は2,270トン。たった1日遅れるだけでも、莫大な損失が生まれていたはずです。ダイトクとしても、迅速かつ的確に対応できて安堵したというのが正直なところです。
今回のような緊急事態は10年に1回起きるか起きないかの大規模なものでしたが、たとえ規模が小さかろうとダイトクの取り扱う製品はユーザー様の事業の根幹に関わるものに違いありません。そのためダイトクではお客様の緊急事態に即座に対応できるよう、日頃から体制を整えています。