実は私たちの仕事や生活のそこかしこには、計量標準が深く関わっています。しかし計量標準という言葉さえ初めて聞いた、という人も多いのではないでしょうか。
ここではそもそも計量標準が何を指す言葉なのかを解説するとともに、それがどのような形で私たちの仕事や生活を支えているのかについても解説します。
そもそも計量標準とはなにか?
「あなたの身長は1m70cmです」「この荷物は850kgです」そう言われても、仮に1mがどれくらいの長さなのか、1kgがどれくらいの重さなのかといった基準がなければ、身長の高さや荷物の重さを理解することはできません。この基準となるのが計量標準であり、長さや重さといった単位を具体的に示す物や発生装置を指します。
古代ギリシャやローマではひじから指先までの長さを「1キュビット」という単位で表したり、古代中国では親指の先から中指の先までを「1尺」としていましたが、それでは人によってさまざまで、地域によっては全く通じない単位となってしまいます。
そのため様々な地域や環境であっても不変で正確に認識できる物を単位の標準としようという働きがあり、計量標準が確立されていきました。
この計量標準は国際レベルのもの、国家レベルのものが存在し、国際レベルのものに関しては国家間の合意のもとで定められており、国家レベルのものに関しては各国の法律で「こういう物や発生装置を計量標準とする」というふうに定められています。
例えば重さについては、分銅とトラックスケールの深い関係とは?でも紹介した国際キログラム原器が国際的な計量標準であり、日本キログラム原器が日本における国家レベルの計量標準となっています。このキログラムを含め、世界では国際単位系と呼ばれる以下の7つの単位の計量標準が定められています。
メートル(m):長さの単位
キログラム(kg):質量の単位
秒(s):時間の単位
アンペア(A):電流の単位
ケルビン(K):温度の単位
モル(mol):物質量の単位
カンデラ(cd):光度の単位
日本や欧米のような近代的な国で安心・安全に暮らすためには、これらの国際単位系が計量標準によって厳密に決まっている必要があります。
例えば長さの計量標準がないと、製造業で使うようなノギスや巻尺、差し金が使い物にならなくなります。極端に言えば上司と部下で1メートルが示す長さが違うわけですから、正しい寸法で製品を作ることができなくなるでしょう。
あるいは時間の計量標準がなければ、予定通りに電車に乗れなかったり、「30分後に○○で会いましょう」という約束が成立しなかったりします。1秒が示す時間にズレが生じると、こうした問題が生じるのです。
この他にも電流の計量標準がなければ電動工具がショートして使えなくなるかもしれませんし、温度の計量標準がなければサウナでの事故が多発するかもしれません。したがって計量標準は必要不可欠であり、厳密であればあるほど良いのです。
国際単位系とその計量標準
では国際単位系の計量標準はどのように定められているのでしょうか。下表はそれぞれの量と単位の名称、計量標準をまとめたものです。
量 | 単位の名称(記号) | 計量標準 |
---|---|---|
長さ | メートル(m) | 光が1秒の2億9,979万2,458分の1に進む距離。 |
質量 | キログラム(kg) | 国際キログラム原器。日本国内においては日本キログラム原器。2019年5月20日から変更予定。 |
時間 | 秒(s) | セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間。 |
電流 | アンペア(A) | 真空中に1mの間隔で平行に配置された無限に小さい円形断面積を持つ、無限に長い2本の直線上導体のそれぞれを流れ、これらの導体の長さ1mにつき、2×10の7乗ニュートンの力を及ぼしあう一定の電流。 2019年5月20日から変更予定。 |
温度 | ケルビン(K) | 水蒸気、水、氷が共存する温度(水の三重点)の273.16分の1。2019年5月20日から変更予定。 |
物質量 | モル(mol) | 0.012 キログラム(12グラム)の炭素12の中に存在する原子の数と等しい要素粒子 (elementary entities) を含む系の物質量。2019年5月20日から変更予定。 |
光度 | カンデラ(cd) | 周波数540×10の12乗ヘルツの単色放射を出す光源のある方向の放射強度が683分の1ワット毎ステラジアンであるとき、その方向の光度。 |
正直なところ聞きなれない言葉も多く、何を示しているかわからない計量標準もあるかと思います。しかしここで重要なのは、計量標準が具体的に何を指しているかを理解することではなく、いかに厳密に計量標準が定められているかを理解することです。
例えばメートルの計量標準は、かつてメートル原器と呼ばれる物でした。これは国際キログラム原器と同じプラチナ90%イリジウム10%の1メートルの棒です。
しかし物質はやがて劣化し、変質してしまいます。これはメートル原器も例外ではなく、より厳密なメートルの計量標準が求められました。その結果として定められたのが、より不変の光を基準にした現在の光が1秒の2億9,979万2,458分の1に進む距離という計量標準なのです。
また秒の計量標準は、かつて1日の長さをもとに定められていました。つまり1日の長さを24分割して1時間とし、それをさらに60分割して1分とし、さらに60分割したものを1秒としていたのです。しかし19世紀から20世紀にかけての天文学の研究により、1日の長さには一定の変動があることが判明します。
そこで様々な議論を経て採用されたのが、現在の計量標準です。これは原子核が持つ不変的な現象をもとに定義されているため、従来の計量標準よりもはるかに厳密な定義となっています。
上表にもある通りキログラム(質量)とアンペア(電流)、ケルビン(温度)とモル(物質量)の計量標準は2019年5月20日から新しい計量標準が使われることになっています。
これはこの4つの単位の計量標準が不確かさを含んでおり、その不確かさを低くするためにより客観的な数値で示せるよう改定が加えられたからです。この改定により、7つの国際単位系全てが物理数式で表現できるようになったため、世界の計量がさらに厳密に行われるようになります。
国際単位系とそこから生まれる様々な単位
ちなみに、国際単位系として前述の7つが選ばれたことには再現性の高さやシンプルさなど、いくつか理由があります。その中には、組み合わせると、よく使われる他の単位も表現できるという点も挙げられます。例えば下表のような具合です。
量 | 単位の名称(記号) | 基本単位による表現 |
---|---|---|
力 | ニュートン(N) | メートル×キログラム×秒のマイナス2乗 |
周波数 | ヘルツ(Hz) | 秒のマイナス1乗 |
電力・工率・放射束 | ワット(W) | メートルの2乗×キログラム×秒のマイナス3乗 |
立体角 | ステラジアン(sr) | メートルの2乗×メートルのマイナス2乗=1 |
電気抵抗 | オーム(Ω) | メートルの2乗×キログラム×秒のマイナス3乗×アンペアのマイナス2乗 |
線量当量 | シーベルト(Sv) | メートルの2乗×秒のマイナス2乗 |
ニュートン、ヘルツ、ワット、ステラジアンは、国際単位系の計量標準にも登場した単位です(アンペア、カンデラ)。オームは理科の実験で習った人も多いはずです。学校の授業で習った当時はこれがメートルやキログラムで表現できるとは思いもしなかったのではないでしょうか。
シーベルトは2011年以降メディアなどでも話題になりましたが、これがメートルと秒で表現できることを知っている人は、それほど多くないでしょう。これらの単位が正確に計量できるのも、国際単位系が計量標準によって厳密に定義づけられているからこそなのです。
まとめ
トラックスケールを始めとするダイトク製品は、重さの計量標準すなわちキログラム原器から生まれた分銅を使って作られています。だからこそ、ダイトクの製品は安心・安全な取引ができるはかりとして、数多くのユーザー様からご利用いただいているのです。
トラックスケールや台ばかりなど、重さを計る機器について困ったことがある場合は、ぜひダイトクまでご用命ください。