アメリカは経済力、技術力、軍事力、全てにおいて世界トップの国です。しかし「単位」の取り扱いに関しては、世界ワースト1位と言えるほど非効率で、遅れています。

というのも、アメリカの単位は世界標準のメートル法の単位(メートル、グラム、リットル)が主流ではなく、ヤードポンド法の単位(マイル、ヤード、バレル、ガロン、ポンド、オンスなど)が主流であり、両方の単位が一緒くたに使われているのです。

このような状況は様々な混乱を引き起こしていますが、アメリカは一向に単位を統一しようとはしません。 今回はその理由について考えみたいと思います。

INDEX
  1. 2019年現在もメートル法を採用していないアメリカ
  2. メートル法とヤードポンド法の併存が招いている混乱
  3. アメリカがいまだにメートル法を採用していない理由
  4. アメリカはこれからもずっとヤードポンド法?
  5. まとめ

2019年現在もメートル法を採用していないアメリカ

メートル法の単位 ヤードポンド法の単位
メートル
キロメートル
グラム
キログラム
リットル
キロリットル


マイル
ヤード
ポンド
オンス
バレル
ガロン


アメリカ国内で使われている単位は2019年12月現在、メートル法で統一されていません。

むしろヤードポンド法が主流となっており、農場や工場、スポーツのコートのほか、スーパーやキッチンにおいてもヤードポンド法の単位が使われています。

単位換算がわかりやすいメートル法に対して、ヤードポンド法の単位換算は非常にややこしく、長さだけでもマイル、ハロン、チェーン、ヤード、フィート、インチと呼び方が変わっていきます。

質量はポンド、オンス、グレーンで、体積はバレル、ガロン、クォート、パイントです。

しかしメートル法は世界標準の単位系ですから、使わないわけにはいきません。

そのため例えばジュースはリットル表記、牛乳はガロン表記、道路標識もマイルとメートルを併記するなど、2つの単位系が一緒くたになっているのがアメリカの現状です。

メートル法とヤードポンド法の併存が招いている混乱

憤るアメリカ人

単位が統一されておらず、しょっちゅう換算が必要な状況では、必ずと言っていいほどトラブルが起きます。

単位の間違いが大事故につながることも!知っておいてほしい「単位」の大切さでも紹介したNASAの「マーズ・クライメイト・オービター」の事故はその典型です。

火星探査機マーズ・クライメイト・オービターは、1998年11月に地球から打ち上げられますが、1999年9月23日に起きた航行ミスにより、交信が途絶え、行方知れずになってしまいます。

のちの調査により、航行ミスの原因は「ヤード・ポンド法の単位で行われていた計算結果を、探査機の航行担当チームがメートル法の単位だと思い込み、換算をしないまま使用したこと」だと判明します。

この探査機の開発コストは当時の金額で1.931億米ドルだったそうです。

世界最高峰の知能が集まるNASAでさえこんな有様なのですから、取引のたびに換算が必要になる輸出入の現場や、一般企業、一般家庭で起きている単位換算ミスは数え切れないほどでしょう。

任天堂のスマホゲーム『ポケモンGO』はアメリカでも大人気ですが、このゲームで使われた距離の単位はキロメートルだったため、アメリカのユーザーが「5キロメートルって何マイルだ?」と混乱した、という笑い話もあります。

日本人がアメリカに旅行に行くと……

スーツケースとビジネスマン

日本のようなメートル法を採用している国からアメリカに旅行に行くと、そこかしこで単位のややこしさに頭を抱えることになります。

スーパーに入れば食品のオンス表記に悩まされ、ビアバーに入ってパイントやクォートの表記を見て注文を決めあぐね、レンタカーに乗って道路標識やスピードメーターのマイル表記に戸惑う……。

飛行機への手荷物機内持ち込み重量・サイズもポンドとインチで決まっているので、わざわざ換算する必要があります。

ともかくも、メートル法とヤードポンド法の単位が一緒くたになっていると、何かと問題や混乱が起きるものなのです。

アメリカがいまだにメートル法を採用していない理由

トーマス・ジェファーソン

多くの問題があるにもかかわらず、なぜアメリカはいまだにメートル法を採用しないのでしょうか。

大阪大学などで教鞭もとっているアメリカ大統領研究者、西川秀和氏によれば、どうやらアメリカの国としての「意地」に原因があるようです。

メートル法が発足した1790年当時に後のアメリカ大統領トーマス・ジェファーソンは、実はアメリカ発の単位系を作り、これを世界標準にしようとしていました。これには2つの理由がありました。

一つは、ジェファーソンがメートル法よりも自分の考えた単位系の方が、国際的に統一しやすいと考えていたこと。

もう一つはアメリカが単位系の基準を握れなくなり、正確な計量のためにはフランスに依存しなければならないことです。

それから約230年経ち、もはやメートル法はほぼ世界を統一しました。ジェファーソンの考えた単位系でなくとも、国際的な統一は可能だったわけです。

残っているのは「アメリカが単位系の基準を握りたい」という国としての意地の部分だけ。

このことからアメリカがいまだにメートル法を採用していないのは、どうやら意地の問題らしいと考えられるのです。

アメリカはこれからもずっとヤードポンド法?

ホワイトハウス

「意地だけの問題ならさっさとメートル法に切り替えればいいのに」と思ってしまいますが、なかなかそうもいかないようです。

例えば「計測の自由」にまつわる議論。

これは「『メートル法を使え』と強制するのは、国民の計測の自由を侵害する行為だ」というもので、だから「ヤードポンド法を使ってもいい」という状況は維持するべきだというのです。

あるいは切り替えコストの議論もあります。たしかにメートル法での表記を義務付ければ、公的機関はもちろん民間企業にも膨大なコストを強いることになります。だから単位系を切り替えるべきではないというわけです。

効率を考えれば自由を云々するよりも、切り替える方が賢明です。また、単位系が一緒くたになっている状況の方が無駄なコストが多いのですから、長期的な視点で考えれば切り替えるのが道理でしょう。

しかしアメリカ政府はどうやら当分メートル法に切り替えるつもりはないようです。

というのも2013年、アメリカ政府の目安箱(「We the People」)に「ヤードポンド法を廃止してほしい」という投書が5万件近くの署名を集めて提出されました。

ところが、これに対する当時の政府の回答は、早い話が「政府としてはどちらでもいいから、好きな単位を使って生活してくれればいいよ」というものだったのです。

未来のことは誰にもわかりません。しかし政府がこのような対応をしていることを考えると、ひょっとするとこれからもずっと、アメリカはヤードポンド法を使い続けるのかも知れません。

まとめ

アメリカが長年に渡って垂れ流している単位換算コストは、同国の経済力を考えると膨大でしょう。世界経済にも大なり小なり、影響を与えているはずです。

そう考えると「なんとかしてくれ」と思わないでもありませんが、他国の事情ですからどうすることもできないのが現状です。

私たちにできるのは、アメリカの単位事情から学ぶことくらいでしょう。というのも、

・体面が邪魔をして効率を犠牲にする。
・短期的なコストが気になって、長期的なコストが見えてない。

これは会社組織でも日常的に起きているミスだからです。アメリカのように、目先の問題に惑わされて大事なことを見失わないよう、くれぐれも注意したいものです。

ヤードポンド法のように昔から続けてきたことを変えるのは大変ですが、時には思い切って決断できる人間でありたいものですね。